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2015/11/17

急性心筋梗塞・不安定狭心症に対する緊急PCIのTips

薬剤溶出ステントが標準的に使用されるようになった現在、再狭窄による狭心症に対する待機的PCIは激減し、若い術者が最初に行う症例は急性心筋梗塞(STEMI)をはじめとする緊急PCIが殆どとなっている。クラシカルに、STEMIに対するPCIで最も大切なことは「Door-To-BalloonTimeであり、診療報酬でも評価されていることとなった。学会やライブ等ではDoor-To-Catheter-Lab時間の短縮について多数の発表がなされているが、Puncture-to-Balloonについて論じられていることは少ない。

急性前壁心筋梗塞の心電図 さあ、どうします?


穿刺部位の選択
病歴・心電図でSTEMIがきわめて疑わしい場合、著者は両鼠径部を十分に消毒した上で、左手首穿刺を第1選択とする。スリットシース(Medikit)やグライドシーススレンダー(Terumo)により、それぞれ6Fr25cmや場合によっては、内腔7Fr相当のシースも使用となっている。デバイスの進化により、AMIACSなどの病変であれば、7Fr以上のシステムを使用する必要性は殆どなくなり、著者の施設では、6FrシステムをRoutineとしている。橈骨穿刺のメリットは、状態がよいところで、動脈確保を一つ行えるため、状態悪化時のIABPPCPS挿入が鼠径からすぐに行えることである。極論では鼠径は、心臓マッサージ下でも触知することができるが、橈骨はほとんどの場合において触知しないこと、IABPは一部の特殊なものをのぞき、PCPSは全例鼠径からでなければ使用できないため橈骨動脈を有効活用することで、それらのデバイスにとって必要な血管を確保できるからである。
なお、触知不良や動脈硬化により橈骨穿刺に3分以上要する場合は、速やかに鼠径穿刺としている。緊急CAGは側副血行を確認するため、LCA病変が疑われる場合はRCAから、RCAが疑われる場合はLCAから造影している。RCAの場合はBiplane1ショット(RAO-CranialLAO-Caudal)、LCAの場合はBiplane2ショットと必要な場合、Pure-cranialまたはPure-caudalを追加している。これでGCをきめる。GCはクラシックなもので、Ikariを除くとTFIで行いやすいよう設計されている。血管の走行から冠動脈に対する入り方、バックアップ力を鑑みると右手首でなく左手首アプローチの方がすぐれている。

GCの選択 個人的には形状のラインナップが多く、硬くて熱だれもしにくいLauncher(Medtronic)を好んで使うが、先端がシャープであるため、解離を作らない、ということに関して、注意は必要である。
好みはあるが、LCAの場合、著者はJL4カテーテルの入り方をSpiderで判断し、原則それでよい場合にはEBU3.5SHを選択しているが、形状によって、IL3.5(Terumo Heartrail)を使用することもある。最も大切なのはLMTに解離を作らないこと、次に対象血管に対して可能な限りコアキシャルであることとである。LCXに対する場合はVodaタイプやきわめて限定されるがAL2を用いることもある。

RCAの場合、前方開口であれば、まずSAL075を第1選択にしている。ただし、このGCは入口部の解離を作りやすいこともあるため、十分な注意が必要である。近くの場合であれば、押す・引く・回すの操作で出し入れのコントロールが行いやすいこと、#3以遠でバックアップもとることが可能であることから好んでいる。

ワイヤーの選択
1選択は先端加重が小さく、トルクコントロールが効きやすく、先端形状がつくりやすいJoker(日本ライフライン)としている。Jokerはコアシャフトまで太いため先端の感触が非常に指まで伝わりやすく、血栓あるいはプラークの性状を直に感じることができる。先端は1段階で比較的大きめの曲げとし、比較的速めの回転と進め方でクロスさせるのに適している。また、末梢Perforatoin防止のため、病変を通過させた後は、あえてKnuckleとするようにつとめている。
2選択は先端加重が比較的小さく、トルクコントロールがよい、Sion-Blue(朝日インテック)を用いる。こちらは先端を2段階曲げとして、狙った方向を定めてそこをスッと通すのがよいポイントである。コアシャフトが細いため、マイクロカテーテルやCrusade(カネカメディックス)OTWルーメンとの相性は非常によい。
3選択でポリマージャケットワイヤーのSionBlack(朝日インテック)となる。どうしても枝あるいは本幹が選択できないとき、石灰にはねられるときなどに使用する。個人的に末梢Perforationの危険性があるため、コーティングワイヤーそのもので手技を貫徹することは絶対にないこと、はじめに通常のコイルワイヤーでプラークや狭窄の感触を確かめた上での操作が、解離の防止にも有用であると考えている。(透析患者の屈曲石灰化+長病変は別と考える) Cross後は必ず、Kusabiを用いてコイルワイヤーに交換する。

マイクロカテーテルの選択
基本は緊急病変の場合、マイクロカテーテルを用いることが多い。理由は、より正確にプラークの性状を自分自身が感じること、絶対に解離を作ってはならないため、ワイヤーに加重をかけることなく、通すためにはトルクスタビリティーが要求されるからである。Kusabi(カネカメディックス)を用いれば、除去に何のストレスもない。現在、細くて硬いQualia(オーバスネイチメディカル)やProminent(東海メディカル)を用いるか、柔らかくて追従性のよいMizukiFXを用いるかは症例に応じて使い分けてはいるが、最近のマイクロカテーテルは追従性も先端の形状も優れており、緊急で使う場合に大差はないと考える。しかし、Crusadeは別物である。バックアップ力の強さを得るため、RXルーメンにJokerなど比較的太めのコアシャフトをもつワイヤーを通した上でOTWルーメンにSionシリーズなど比較的細めのコアシャフトを有するワイヤーを用いて側枝または本幹をとらえることは、従来、マイクロカテーテルのみで操作をしていた時とは別物の正確さと容易さである。CrusadeKとなり、先端チップがLong-Taperとなったことで、プラークの先まで入れることもできるため、Corsairのような貫通カテーテルのような目的としても使えること、ステント留置後、ストラットを着実に通すことが可能であること、末梢Slow-FlowNo-Reflowとなった場合の薬剤注入にも利用可能であること、もちろん、慎重を期するが、OTWルーメンからの血流確認や末梢造影にも利用できるため、積極的に使用している。201511月現在では、緊急において、Crusadeがマイクロカテーテルとしても第1選択になってきている。

IVUSの選択
緊急症例の場合、血栓の性状や分布、プラークの分布、石灰の有無、前後の血管径を把握することが大切であり、どの機種でも問題はないと思われる。機械式ではNurdoが気になることやPullbackスピードが変わらないことから、電子式でマーカーを有すEagleEyeを使うことが多い。

吸引デバイスの選択
内腔が大きく、通過性がよく、KinkしにくいThrombuster(カネカメディックス)を用いる。赤色血栓が疑われる場合(血管造影での透亮像やIVUSでの血塊所見)はそれがなくなるまで、そうでない場合にも、必ず最低3回は吸引し、血小板血栓、破裂したプラーク内容物を可能な限り吸引する。細かい運動となめらかな運動を組み合わせることで、より多くのデブリスを吸引出来ると考える。


前拡張バルーンの選択
浮遊血栓やあきらかにUnstable-Plaqueが有る場合はダイレクトステントを行うが、必要に応じて、前拡張をすることもある。
石灰化がある場合には、通過性がよく割もはいるScoreflex(オーバスネイチ)を用いることが多い。また、Scoreバルーンで全拡張をした場合、その割の入り方から、側枝が残りやすい印象もある。ただし、6FrKBTを行うことができないため、大きな側枝があり、KBTを要する場合には、通過性がよく柔軟性の高い、Ikazuchi-ZEROKamui(朝日インテック)2.0x15を用いる。10秒程度で拡がった段階で終了とする。側枝を先に拡張する場合は、末梢側に解離がないことを必ず造影で確認する。同じサイズあるいは同じバルーンを用いることで、長さ、病変の特性を着実に見極めることができる。

ステントの選択
かつて、Close-SELLでストラットも厚いClassic-Cypher(Cordis)Bx(Cordis)を使用していたことを考えると、現在ではどのステントを選んでも大差はないと考える。Xience(アボット)もAlpineになってからは先端チップやシャフトが大きく改善され、当初みられたPromusElementとの通過性やバルーン性能の差はなくなっている。著者は近位部かつ側枝が大きな場合、少しでも拡張しやすいこと、ステンレススチールの信頼性と視認性、シャフト性能から、BMX-J(バイオセンサーズ)を用いることが多い。3mm以下の場合は、先述のXienceを使用する。かつてはプラチナ含有ステントである、PromueElement(ボストン)を第1選択としていたが、CTフォローを原則としているため、非常にハレーションが強く、少なくとも3mm以下では正確な評価が得られづらいこと、再構成する技師の負担を軽減するため、Alpine登場以後は全く用いていない。2リンクであっても3リンクであっても、正直、側枝の確保に大差はないと考える。

後拡張バルーンの選択
KBTを行う場合は、デバイス節約のため、ステントバルーンと前拡張に用いたバルーンを用いるが、近年言われている「303回拡張」を緊急のAMIACSで行うことは、血圧低下、患者の胸痛、不整脈の出現などから通常のバルーンでは非常に行いづらいことが多い。特に、夜間など術者1名のみしか医師が居ない環境(当院では通常でも1名だが)では、これらの事態を避ける目的でIABPなどを留置することもある。そこで、末梢還流が可能な流星(カネカメディックス)を用いる。メーカーからはワイヤーを抜いた状態であれば、還流可能、とあるが、ワイヤーを抜かずとも、十分な末梢還流が得られる。あくまで小生の経験測ではあるが、通常のバルーンで15秒程度しか耐えられないLMTLAD入口部、RCA近位部であってもこれを用いると30秒から60秒拡張しても血圧低下も不整脈も生じない。(さすがに60秒以上拡張した場合には生じることがある)。また、例え15秒であっても末梢血流を遮断しないことは、AMIACSで微少塞栓が起きていると考えられる末梢血管床の還流状態を阻害しないということでもあり、特に緊急症例においての還流型バルーンはもっと積極的に用いられるべきである。

最終確認
IVUSでプラークにステントが密着していること、DESであれば、MLA5mm²の確保が得られていること、末梢塞栓や解離がなければISDNを注入して終了でよいと考えている。

補助デバイス
当院では急性心筋梗塞に対し、心負荷をとる目的でのASV4-8設定)+酸素5L投与はルーチンとしている。これにより、たとえLCXであっても心機能が障害を受けた状態でのベッド上フラット環境における、心負荷は少しでも低減できること、心室細動などが生じた場合の呼吸アシストが着実となるため、二重の効果が得られている。
IABPは心不全が合併している場合やカテーテル室入室時の収縮期血圧100または拡張期血圧60未満の場合には、造影前に鼠径から挿入、造影を行い病変が心機能を大きく低下させるLAD近位の場合、あるいは末梢塞栓をきたしやすいRCA近位の場合にはまず挿入する。東海メディカルのブレード入りバルーンは耐キンク性にも優れ、ASO合併例においてもエラーアラームが鳴ることはほぼない。通常は35mlを使用し、体格に応じて30または40の使用としている。
RCAまたはRCA病変を合併したLCXの心筋梗塞ではぺーシングを使用、SGカテーテルは心不全の状態に応じて使用している。鼠径からエドワーズの5Fr対応のものを緊急時には利用する。感染、離断、深部静脈血栓予防のため、3日以後の留置をする場合は、改めて、内径または鎖骨下からCCUで留置している。

薬剤
特に再還流時の血圧低下は致命的であるため、吸引前、またはPOBA前にはフェニレフリンを用いてSBP160DBP100以上となるよう心がけている。徐脈傾向がある場合は硫酸アトロピンを1/2A、フェニレフリンより先に静注する。それでも、Slow-FlowNo-reflowとなった場合には、可能な場合にはシースから(7Frグライドシースを入れて6Frガイドを使用している場合など)、そうでない場合には、冠動脈から大きく外したガイドカテーテルから20mlの動脈血を採取したものを、ガイドから思い切り注入し、末梢還流を確保している。その後、薬剤として、CrusadeまたはFCカテーテルからISDNやニコランジルを選択注入しているが、特にニコランジルの注入時は不整脈が生じやすいため、スタッフがいつでもDCを施行できる状態で行っている。DoAは血圧や心拍数に応じて程度の使用、DoBは右心不全を合併している場合に使用している。カリウムはシース挿入時の動脈血採血で4.0未満の場合、速やかに末梢のメインに加えて補正している。ヘパリンは動脈ルート確保後、体格に応じて7000から10000単位動注し、ACT>250となるようにしている。PCI中は30分ごとにACT計測を行うが、AMIACSPCI60分を越えることは殆どないため、1回程度の計測と終了時の計測で終わっている。
なお、持続投与として、VPCがほんのわずかでも見られる場合、K<4.0の場合はリドカインを、シグマート48mg+NS100mlの12ml/hの持続静注、許される場合のISDNや微量HANP(5000μgを5%Tz100mlで希釈したものを1-2ml/Hr)も併用する。

緊急は特に手技時間の短縮にこだわっている。処置時間が長くなれば長くなるほど、合併症が生じる危険性は高く、患者の安全を確保し、家族の不安を低減するためにも「Simple is the best」「Less invasive」を心がけ、大きな合併症がない限り、造影も含めての手技時間60分未満、透視時間15分未満、造影剤100ml未満を達成している。(2013年から2015年)
もちろん、非責任血管においても、高度狭窄病変がある場合、上記の範疇であれば、完全血行再建を行っている。これにより、CCU入室後の追加PCIや再PCIはほとんどなく、心臓リハビリテーションも行いやすくなっている。


以上 この近年のデバイスによりかなり容易となった緊急PCITipsをまとめてみた。個人情報保護の観点から、症例の具体的な写真をWEBで公開できなくなったことが残念でならないが、このつたない文章からイメージだけでもしていただきたい。何らかの形でこの文章は図も加えたものとともに、CloseでPublishしたいと考えている

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